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第13章

夫のその後

帝都ホテルのロビーは、いつも静かだった。

チェックインカウンターに立つと、世界が少し遠くなる感じがした。

彼はその感じが、好きだった。

ビジネスの現場では、いつも何かに追われていた。数字に、評価に、父の影に。でもここでは、目の前の人だけを見ていればよかった。

「お荷物をお持ちします。」

そう言うと、相手が少し表情を和らげた。その瞬間が、好きだった。

父を超えたいと思っていた。見返したいと思っていた。でもここに来て、初めて気づいた。

俺は、人が笑う瞬間が見たかっただけだ。

それだけのことだった。

百合のことを、時々思い出した。

思い出すたびに、胸に何かが引っかかった。痛みとは少し違う。後悔とも少し違う。

ただ——

百合は今、どこにいるだろう。

それだけ思った。

連絡はしなかった。

する言葉を、持っていなかった。

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