黒岩から久しぶりにメッセージが来たのは、森に行ってから3ヶ月後だった。
「仕事、決まりました。来月から。」
百合は返信した。
「よかった。どんな仕事ですか。」
「自然農法と、村の情報発信。WEBも少し使うので、無駄じゃなかった。」
百合は少し笑った。
「無駄なことって、ないんですかね。」
しばらくして返信が来た。
「蓮見さんらしいこと言いますね。俺、森にいて気づいたんですけど。」
「何ですか。」
「イノシシって、毎日同じ道を通るんですよ。でも同じようで、少しずつ違う。昨日より少し深い轍になってたり、新しい匂いを嗅いでたり。」
百合は画面を見たまま、動かなかった。
「それで?」
「なんか、そういうものかなって。同じところをぐるぐるしてるみたいで、ちゃんと進んでる。」
百合はその文を、3回読んだ。
窓の外に、夜の東京があった。無数の光が、動いていた。止まっていた。また動いていた。
同じところをぐるぐるしてるみたいで、ちゃんと進んでる。
百合は2万冊の中で、輪廻という言葉を何度も読んでいた。仏教の本で。ヒンドゥーの話で。ギリシャ哲学の端っこで。
でもそれは全部、本の中の言葉だった。
黒岩の言葉は、イノシシの話だった。
なのになぜか、同じことを言っていた。
返信した。
「イノシシに会ってみたいです。」
すぐに返ってきた。
「来ますか。車で3時間くらいです。」
百合は3秒考えた。
「いつがいいですか。」