首都高を飛ばした。黒岩の車だった。百合は助手席で窓の外を見ていた。
ラジオもつけなかった。二人とも、黙っていた。沈黙が、苦じゃなかった。
この人、沈黙を埋めようとしない。
百合は少し、安心した。
海が見えてきた。夕方だった。光が水の上で砕けていた。
車を止めた。二人で外に出た。波の音だけがあった。
黒岩は海を見ながら言った。
「銀座で振り返った時、追いかけようとしたんですよ。」
百合は海を見たまま答えた。
「なんで、やめたんですか。」
「人が多すぎて。」
百合は少し笑った。
「正直ですね。」
「蓮見さんは、振り返った理由、わかりますか。」
百合は少し考えた。波が来て、返した。
「わからないです。」
それだけ言った。
黒岩は笑った。百合も笑った。海だけが、ずっと動いていた。