その夜、誠はスマホを見た。
去年一年間のクレジットカードの明細を、初めてちゃんと開いた。
コンビニ、スーパー、サブスク、交通費。
全部、カードで払っていた。
現金を使ったのは、近所の古い定食屋だけだった。
俺の消費、全部見られてるのか。
気持ち悪いとは思わなかった。
思えなかった。
もう慣れていたから。
翌日の昼休み。
眞子はまた窓際にいた。
誠は向かいに座った。
「昨日、明細見ました」
「どうだった?」
「ほぼ全部カードでした」
眞子は弁当箱を開けながら言った。
「そうだよね。今の仕組み、現金使う方が不便になってるから」
「ATM手数料とか」
「そう。現金を使うコストを上げて、カードを使うコストを下げる。そうやって少しずつ、誘導してる」
誠はコーラを飲んだ。
「眞子さん」
「うん」
「昨日、昔いろんなものを失ったって言ってましたよね」
眞子は箸を止めた。
少し間があった。
「言ったね」
「聞いてもいいですか」
眞子は窓の外を見た。曇りだった。
「モデルやってた頃、結構稼いでたの」
「はい」
「全部、投資に回した」
誠は黙って聞いた。
「当時流行ってた金融商品。担当者が良い人でさ、信頼してた。気づいたら全部なくなってた」
「詐欺ですか」
「法律的にはグレー。でも結果は同じ」
眞子は箸を動かした。
「そのとき初めて、仕組みを調べた。お金がどう動くか。誰が儲けるか。なんで私は気づかなかったか」
誠は少し考えた。
「だから詳しいんですね」
「詳しくなりたかったわけじゃないけどね」と眞子は言った。「授業料が高すぎた」
少し笑った。
飾りのない笑いだった。
誠はコーラの缶を両手で持った。
「眞子さん、怖くないんですか。仕組みがわかって」
「最初は怖かった」
「今は?」
眞子は誠を見た。
「コナンくんは怖そうに見える?」
誠は少し考えた。
「見えないですね」
「なんで?」
「全体が見えてるから」
眞子は笑った。今日は少し長く笑った。
「そういうこと」
チャイムが鳴った。
立ち上がりながら、誠は言った。
「じゃあ、どうすればいいんですか」
眞子は弁当袋を持った。
「それ、来週聞いて」
「引っ張りますね」
「人生で大事なことは、一度に教えてもらえないの」
そう言って、先に出て行った。