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第五章

失ったもの

その夜、誠はスマホを見た。

去年一年間のクレジットカードの明細を、初めてちゃんと開いた。

コンビニ、スーパー、サブスク、交通費。

全部、カードで払っていた。

現金を使ったのは、近所の古い定食屋だけだった。

俺の消費、全部見られてるのか。

気持ち悪いとは思わなかった。

思えなかった。

もう慣れていたから。


翌日の昼休み。

眞子はまた窓際にいた。

誠は向かいに座った。

「昨日、明細見ました」

「どうだった?」

「ほぼ全部カードでした」

眞子は弁当箱を開けながら言った。

「そうだよね。今の仕組み、現金使う方が不便になってるから」

「ATM手数料とか」

「そう。現金を使うコストを上げて、カードを使うコストを下げる。そうやって少しずつ、誘導してる」

誠はコーラを飲んだ。

「眞子さん」

「うん」

「昨日、昔いろんなものを失ったって言ってましたよね」

眞子は箸を止めた。

少し間があった。

「言ったね」

「聞いてもいいですか」

眞子は窓の外を見た。曇りだった。

「モデルやってた頃、結構稼いでたの」

「はい」

「全部、投資に回した」

誠は黙って聞いた。

「当時流行ってた金融商品。担当者が良い人でさ、信頼してた。気づいたら全部なくなってた」

「詐欺ですか」

「法律的にはグレー。でも結果は同じ」

眞子は箸を動かした。

「そのとき初めて、仕組みを調べた。お金がどう動くか。誰が儲けるか。なんで私は気づかなかったか」

誠は少し考えた。

「だから詳しいんですね」

「詳しくなりたかったわけじゃないけどね」と眞子は言った。「授業料が高すぎた」

少し笑った。

飾りのない笑いだった。

誠はコーラの缶を両手で持った。

「眞子さん、怖くないんですか。仕組みがわかって」

「最初は怖かった」

「今は?」

眞子は誠を見た。

「コナンくんは怖そうに見える?」

誠は少し考えた。

「見えないですね」

「なんで?」

「全体が見えてるから」

眞子は笑った。今日は少し長く笑った。

「そういうこと」

チャイムが鳴った。

立ち上がりながら、誠は言った。

「じゃあ、どうすればいいんですか」

眞子は弁当袋を持った。

「それ、来週聞いて」

「引っ張りますね」

「人生で大事なことは、一度に教えてもらえないの」

そう言って、先に出て行った。


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