翌朝。
拓海は電車に乗っていた。
いつもの通勤電車だった。
いつもの時間だった。
いつもの車両だった。
違ったのは、拓海の目だった。
向かいの席に、サラリーマンが座っていた。
五十代くらいだった。
疲れた顔をしていた。
スマートフォンを見ていた。
画面の中に、ニュースが流れていた。
イランの話だった。
男は画面をスクロールした。
次のニュースへ。
芸能の話だった。
男は少し、表情が緩んだ。
関係ない、と思っているんだろうな。
拓海は思った。
そして気づいた。
一週間前の俺と、同じだ。
怒りではなかった。
責める気持ちでもなかった。
ただ、わかった気がした。
この男も、忘れているだけだった。
電車が駅に止まった。
人が降りた。
人が乗ってきた。
ドアが閉まった。
電車が動いた。
拓海は窓の外を見た。
東京の景色が流れていた。
ビルが流れた。
線路が流れた。
空が流れた。
この景色を見ている人間が、全員観測者だとしたら。