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第八章

二ヶ月

二ヶ月は、長いようで短かった。

五人はそれぞれの場所へ散った。

そして準備をした。


エリックはオスロの研究室でアルジュナの詩の周波数を測定した。

測定結果を見た瞬間、エリックは椅子から立ち上がった。

「これは」

画面に波形が映っていた。

人の脳波のアルファ波と、完全に一致していた。

覚醒時の、最も澄んだ状態の脳波だった。

エリックは震える手で数値を記録した。

そしてオベリスクの共鳴周波数と比較した。

ソフィアが言っていた数値だった。

真逆だった。

完璧に、真逆だった。

詩がオベリスクに乗れば、周波数が反転する。

理論的に、正しかった。

エリックは歴史学者だったが、その瞬間、物理学者になった気がした。


レイニーはニューメキシコの砂漠に帰った。

祖母の家の裏、岩の下に、石板があった。

子供の頃に見せてもらったことがあった。

記号だらけの石板だった。意味がわからなかった。

今は、読めた。

全部、読めた。

血が、翻訳した。

石板には、周波数の記録だけではなかった。

世界各地のオベリスクの位置が、正確に記されていた。

そして、起動の順番が書いてあった。

レイニーは石板を抱えて、砂漠の夜空を見た。

明るい星があった。

「見ていてくれ」

英語で言った。

それから先祖の言葉で言い直した。


ソフィアはメキシコシティの地下室で、毎晩、自分の手を見た。

緑がかった白い肌。

ネフィリムの血。支配者の血。

これが呪いか、それとも鍵か。

エアの声が来た時、ソフィアは聞いた。

「なぜ私の一族は、離れたのですか」

何世代も前、一人の女性が決めた。子供たちに、支配の側の人間になってほしくないと。彼女は全てを捨てて逃げた。お前はその末裔だ。

「その女性の名前は」

ソフィアという。

ソフィアは長い間、動けなかった。


アルジュナはコロンボに一度帰った。

祖父に会うために。

老人は縁側に座って、夕日を見ていた。

アルジュナが隣に座ると、祖父は振り向かずに言った。

「来た時が来たか」

「知っていたのか」

「お前が生まれた日から、わかっていた」

祖父は空を見上げた。

「詩を全部、覚えているか」

「覚えている」

「体で覚えているか。頭ではなく」

アルジュナは答える前に、詩を唱えた。

最初の一節を唱えた瞬間、祖父が泣いた。

「体で覚えている」

祖父はそれだけ言った。

アルジュナは祖父の隣で、夕日が沈むまで、黙っていた。


透は東京で、普通に会社へ行った。

普通に仕事をした。

普通に同僚と話した。

だが全てが、違って見えた。

オベリスクはないが、東京にも眠りはあった。

過密な情報。絶え間ない刺激。考える暇を与えない速度。

形が違うだけで、同じ機能だ。

透は毎朝、アルジュナの詩を聞いた。

五分だけ。

それだけで、一日の見え方が変わった。

コンラートの監視は続いていた。

透はそれを知りながら、普通に生きた。

泳がせておけばいい。

弥山の言葉を思い出した。


一ヶ月が過ぎた頃、エアから連絡が来た。

透の夢の中に、直接来た。

状況が変わった。

「何が」

第八段階の実行日が、決まった。

「いつだ」

三週間後だ。

透は目を覚ました。

午前三時だった。

スマートフォンで全員にメッセージを送った。

五人全員から、すぐに返信が来た。

全員、眠れていなかった。

全員、同じ夢を見ていた。