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第五章

透を探す

透、という一文字だけでは、何もわからなかった。

ブログのコメント欄は閉じられていた。問い合わせフォームもなかった。

SNSのリンクもなかった。

ただ、記事が十二本あった。

エマは全部読んだ。


記事の内容は、バラバラなようで、一本の糸で繋がっていた。

古代の記号。山岳信仰。縄文の痕跡。サンカと呼ばれた人々。そして、夢の話。

満月の夜に必ず見る夢がある。山の中を走る夢だ。迷わない。足が勝手に動く。

エマは読む手を止めた。

夢の話だった。

でも、他人の夢の話とは思えなかった。

自分の中の何かに、触れてくる文章だった。


十二本目の記事は、短かった。

「行ってくる。」

それだけだった。

投稿日時は、二年前の十月。

それ以降、更新はなかった。

行ってどこへ。

帰ってきたのか。

わからなかった。


一週間、透のブログだけを読み続けた。

十二本を、何周もした。

記事の中に、一度だけ地名が出てきた。

奥多摩ではなかった。

イラク。

ユーフラテス川のほとりの村の名前が、さりげなく書いてあった。

なぜ日本人が、イラクの村の名前を知っているのか。

なぜその村に言及したのか。

記事の文脈は、縄文の話だった。

繋がりが、見えなかった。

でも、エマには引っかかった。


その夜、ノートを開いた。

新しいページに、二つの言葉を書いた。

左に、透。

右に、ユーフラテス。

その間に、線を引いた。

線の上に、小さく書いた。

なぜ?

答えは、まだなかった。

でも、問いが一つに絞られた気がした。

この問いを追えば、何かに辿り着く。

辿り着いた先が怖いかもしれない、とエマは思った。

それでも、やめられなかった。

やめる理由が、見つからなかった。