透、という一文字だけでは、何もわからなかった。
ブログのコメント欄は閉じられていた。問い合わせフォームもなかった。
SNSのリンクもなかった。
ただ、記事が十二本あった。
エマは全部読んだ。
記事の内容は、バラバラなようで、一本の糸で繋がっていた。
古代の記号。山岳信仰。縄文の痕跡。サンカと呼ばれた人々。そして、夢の話。
満月の夜に必ず見る夢がある。山の中を走る夢だ。迷わない。足が勝手に動く。
エマは読む手を止めた。
夢の話だった。
でも、他人の夢の話とは思えなかった。
自分の中の何かに、触れてくる文章だった。
十二本目の記事は、短かった。
「行ってくる。」
それだけだった。
投稿日時は、二年前の十月。
それ以降、更新はなかった。
行ってどこへ。
帰ってきたのか。
わからなかった。
一週間、透のブログだけを読み続けた。
十二本を、何周もした。
記事の中に、一度だけ地名が出てきた。
奥多摩ではなかった。
イラク。
ユーフラテス川のほとりの村の名前が、さりげなく書いてあった。
なぜ日本人が、イラクの村の名前を知っているのか。
なぜその村に言及したのか。
記事の文脈は、縄文の話だった。
繋がりが、見えなかった。
でも、エマには引っかかった。
その夜、ノートを開いた。
新しいページに、二つの言葉を書いた。
左に、透。
右に、ユーフラテス。
その間に、線を引いた。
線の上に、小さく書いた。
なぜ?
答えは、まだなかった。
でも、問いが一つに絞られた気がした。
この問いを追えば、何かに辿り着く。
辿り着いた先が怖いかもしれない、とエマは思った。
それでも、やめられなかった。
やめる理由が、見つからなかった。