年が明けた。
2027年。
世界は、変わらなかった。
ニュースは続いていた。
戦争は続いていた。
でも、拓海は変わっていた。
変わったことは、小さかった。
電車の中でスマートフォンを見る時間が、減った。
窓の外を見る時間が、増えた。
田中と飯を食う時間が、増えた。
母に電話する頻度が、増えた。
ヒーロー映画を見る目が、変わった。
大きなことは、何もしていなかった。
世界を救っていなかった。
特別なことは、何もしていなかった。
ただ、意図的に選択していた。
何を見るか。
何を信じるか。
誰に優しくするか。
ある朝、電車の中で、老人が乗ってきた。
席が空いていなかった。
拓海は立ち上がった。
「どうぞ」
老人は少し驚いた顔をした。
「ありがとう」
それだけだった。
それだけで、拓海には十分だった。