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第九章

選択

年が明けた。

2027年。

世界は、変わらなかった。

ニュースは続いていた。

戦争は続いていた。


でも、拓海は変わっていた。


変わったことは、小さかった。

電車の中でスマートフォンを見る時間が、減った。

窓の外を見る時間が、増えた。

田中と飯を食う時間が、増えた。

母に電話する頻度が、増えた。

ヒーロー映画を見る目が、変わった。


大きなことは、何もしていなかった。

世界を救っていなかった。

特別なことは、何もしていなかった。


ただ、意図的に選択していた。

何を見るか。

何を信じるか。

誰に優しくするか。


ある朝、電車の中で、老人が乗ってきた。

席が空いていなかった。

拓海は立ち上がった。

「どうぞ」

老人は少し驚いた顔をした。

「ありがとう」

それだけだった。


それだけで、拓海には十分だった。