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第二章

煮詰まる

三月が終わった。

エマの部屋には、付箋と印刷した記事と、開きっぱなしの聖書と、ノートが三冊あった。

調べれば調べるほど、点が増えた。

線になりそうで、ならなかった。

ユーフラテス川の水位低下はトルコのダム開発が原因だという記事があった。気候変動が原因だという記事もあった。どちらも正しいのかもしれなかった。どちらも、何かを説明しきれていない気がした。

イランの遺跡への被害は、軍事的には副次的なものだという専門家のコメントがあった。意図的ではない、標的ではない、と。

本当に?

エマは画面を閉じた。

また開いた。

閉じた。


四月の終わり。

職場の同僚に、一度だけ話しかけてみた。

「ねえ、イランの遺跡が攻撃されてるの、なんか変だと思わない?」

同僚は顔を上げた。

「え、戦争だから仕方なくない?」

「そうだね」とエマは言った。

それ以上、話さなかった。


五月の連休明け。

ノートの最後のページに、エマは一行だけ書いた。

頭が、回らない。

スマートフォンを開いた。

インスタのキャンプ仲間のフィードが流れた。青い空。新緑。焚き火の煙。

奥多摩。

エマは画面を見つめた。

もう何週間も、カメラを持っていなかった。

予約サイトを開いた。

考えるより先に、指が動いていた。