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第16章

宇宙

その夜、宿に借りた古民家で、百合は眠れなかった。

縁側に出た。

星が多かった。東京では見えない星が、ここにはあった。

百合は空を見上げながら、2万冊の中の言葉を思い出していた。

宇宙は自分自身を知らない。

どこで読んだか、覚えていなかった。でもその言葉だけは、頭の中に残っていた。

知りたいから、世界を作った。

百合はしばらく星を見ていた。

宇宙が自分を知りたいなら——

私たちが見て、感じて、考えることが、宇宙が自分を知ることになる。

そう思った。

だとしたら。

百合が森に来たことも。 イノシシの轍を見たことも。 黒岩が全てを失って、ここに来たことも。 夫が帝都ホテルで人の笑顔を見ていることも。

全部、宇宙が自分を知るための、一つの轍だ。

誰も無駄じゃない。 どの道も無駄じゃない。 ぐるぐると同じところを回っているようで、ちゃんと深くなっている。

なんのために生き残っているんだろう。

夜中に目が覚めるたびに、そう思っていた。

でも今、少しだけわかった気がした。

生き残ることが、答えだった。

勝つためじゃない。 証明するためじゃない。 ただ、生きること。

轍を、一日分だけ深くすること。

それだけでよかった。

流れ星が一つ、横切った。

百合は見送った。

声は出さなかった。

ただ、見ていた。

宇宙が、また一つ、自分を知った瞬間だった。

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