その夜、宿に借りた古民家で、百合は眠れなかった。
縁側に出た。
星が多かった。東京では見えない星が、ここにはあった。
百合は空を見上げながら、2万冊の中の言葉を思い出していた。
宇宙は自分自身を知らない。
どこで読んだか、覚えていなかった。でもその言葉だけは、頭の中に残っていた。
知りたいから、世界を作った。
百合はしばらく星を見ていた。
宇宙が自分を知りたいなら——
私たちが見て、感じて、考えることが、宇宙が自分を知ることになる。
そう思った。
だとしたら。
百合が森に来たことも。 イノシシの轍を見たことも。 黒岩が全てを失って、ここに来たことも。 夫が帝都ホテルで人の笑顔を見ていることも。
全部、宇宙が自分を知るための、一つの轍だ。
誰も無駄じゃない。 どの道も無駄じゃない。 ぐるぐると同じところを回っているようで、ちゃんと深くなっている。
なんのために生き残っているんだろう。
夜中に目が覚めるたびに、そう思っていた。
でも今、少しだけわかった気がした。
生き残ることが、答えだった。
勝つためじゃない。 証明するためじゃない。 ただ、生きること。
轍を、一日分だけ深くすること。
それだけでよかった。
流れ星が一つ、横切った。
百合は見送った。
声は出さなかった。
ただ、見ていた。
宇宙が、また一つ、自分を知った瞬間だった。