田中誠、37歳。
朝7時に家を出て、夜10時に帰る。帰ったらシャワーを浴びて、冷蔵庫から缶コーラを取り出して、そのままソファに沈む。それがこの三年間の日常だった。
郵便受けに封筒が溜まっていることに気づいたのは、日曜の昼だった。
チラシ、請求書、NHKの何か。
そして一枚、「住民税納税通知書」と書かれた薄緑色の封筒。
開けた。数字を見た。もう一度見た。
年間58万円。
月に直すと、約5万円。毎月5万円、どこかに消えていた。三年間、気づいていなかった。
缶コーラを一口飲んだ。
俺、何のために働いてるんだろ。
月曜の朝、誠はその封筒をかばんに突っ込んで出社した。
なんとなく、捨てられなかった。
昼休み、社食のテーブルで一人コーラを飲んでいると、向かいに誰かが座った。
田中眞子だった。
誠より五つ上の、同じ部署の先輩。いつも地味な服を着ているが、なぜか姿勢だけがやたらきれいだ。
「田中くん、なんか顔色悪いね」
「田中さんに言われたくないです」
「苗字が一緒だから気になるの」
眞子はそう言って、弁当箱を開けた。手作りだった。
誠はかばんの中の封筒を思い出した。なんとなく、口から出た。
「住民税のお知らせって、ちゃんと見たことありますか」
眞子は箸を止めた。
「見たよ」
「いくらでした」
「それより田中くん、いくらだったの」
「58万」
眞子は少し間を置いてから、こう言った。
「で、怒った?」
「怒りましたよ」
「誰に?」
誠は答えられなかった。