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第八章

暗号

十二本を、三回読んだ。

普通に読んでいた時には見えなかったものが、見えてきた。


一本目の記事。

縄文の土器の模様についての考察だった。

螺旋。渦。同心円。

透はこう書いていた。

「この模様は装飾ではない。地図だと思う。どこへの地図かは、まだわからない」

エマはノートに書き写した。


四本目の記事。

サンカと呼ばれた人々についての記事だった。

定住しない。戸籍を持たない。山を渡り続ける人々。

透はこう書いていた。

「サンカは逃げていたのではないと思う。守っていたのだと思う。何を守っていたのかは、まだわからない」

エマはまた書き写した。


七本目の記事。

夢の話だった。

満月の夜に見る、山を走る夢。

その記事の最後に、一行だけ、他の文章と少し違うトーンで書いてあった。

「夢の中で、川が見えた。広い川だった。日本の川ではなかった」

エマの手が止まった。

日本の川ではなかった。

ユーフラテスか。

断言はできなかった。

でも、そう思った。


十本目の記事。

古代の星座についての短い記事だった。

メソポタミアの星図。

エマは息を飲んだ。

透も、星座を調べていた。

記事の中に、こんな一文があった。

「星座は地上に写される。古代人はそれを知っていた。現代人は忘れている」

星座は地上に写される。

エマは壁の地図を見た。

天の門。

攻撃された遺跡の配置。

透は二年前に、すでにこれを知っていた。


十一本目の記事。

短かった。

「会う人がいる。日本ではない場所に住んでいる。その人が、木箱の記号の意味を知っているかもしれない」

日本ではない場所。

どこか。

記事にはなかった。


十二本目。

「行ってくる。」

繋がった。

会いに行ったのだ。

木箱の記号の意味を知っている人に。

日本ではない場所に住む、誰かに。


エマはノートを閉じた。

目を閉じた。

透が会いに行った人物は誰か。

その人物はどこにいるのか。

ブログには書いていなかった。

でも、ヒントはあった。

七本目の記事の、川の夢。

十本目の記事の、メソポタミアの星座。

そして透が調べていた地域の文献は、すべてひとつの場所に集中していた。

イラクだった。

ユーフラテス川のほとりだった。


エマはスマートフォンを手に取った。

航空券のサイトを開いた。

東京からバグダッドへの便を調べた。

画面を見つめた。

長い間、見つめた。

馬鹿げている、とまた思った。

でも今回は、馬鹿げていると思う自分が、馬鹿げている気がした。


検索履歴に、バグダッドという文字が残った。

その夜、エマは初めて、透ではなくイラクの夢を見た。

広い川だった。

日本の川ではなかった。